カスタマーサクセスのKPIはどう設定すべき?
サブスクリプションサービスが増えてきた昨今、「カスタマーサクセスの運営が企業存続を左右する」といっても過言ではありません。
ただ、やみくもに専門の部署を立ち上げて機能させるだけでは、カスタマーサクセスを成功に導くことは不可能です。
カスタマーサクセスで成功するには「適切なKPIの設定」が重要となります。
今回は、カスタマーサクセスの意義をおさらいし、目指すべきKPIの内容や運用の方法について詳しく解説します。
カスタマーサクセスとは
カスタマーサクセスがおこなうべき仕事は、顧客が成功体験を得られるようにサポートし、結果としてサービスを継続利用してもらうことです。
たとえば、サブスクリプションサービスとして利用者の多い「会計システム」を例に考えてみます。
過去の会計システムは、パッケージソフトを販売するところまでが企業の責任でした。
顧客が困ったときのサポートはおこないますが、あくまでもカスタマーサポートの域を超えることはなく「待ちのサポート」に徹するのが一般的でした。
一方、会計システムの販売でカスタマーサクセスが機能すると、以下のような成果が生まれます。
- 導入時…顧客の課題をヒアリングし、最適なシステムを提案できるようになる
- オンボーディング時期…システム操作でつまづかないよう研修や遠隔サポートを企画する
- 利用中…確定申告の時期などに能動的なサポートをおこない、離脱を防ぐ
- 利用継続…スムーズに会計処理を終えることで成功体験を感じてもらい2年目も継続してもらう
上記のステップごとで顧客を成功に導くには、それぞれで適切なKPIを設定することが重要になってきます。
カスタマーサクセスでのKPIの重要性
一般的な営業現場では「売上100億円達成」「利用者〇〇万人以上達成」など、定量的な数字で達成度合いを見ることは容易かもしれません。
しかし、カスタマーサクセスは顧客のサポートや能動的な研修など、定性的な部分の業務が多く「成果が目に見えない」のが難しいところです。
そこで重要になってくるのがKPIの設定です。
KPIとは「Key Performance Indicator」の略で、目標達成までのプロセスごとに決められた定量目標のことをさします。
カスタマーサクセスの代表的なKPIとしては以下のような指標があります。
- 解約率
- 継続率
- LTV(ライフタイムバリュー)
KPIを設定してカスタマーサクセスを成功に導くためには、「KGI」の設定も同時におこなわなければいけません。KGIとは「Key Goal Indicator」の略です。
KGIを直訳すると「重要目標達成指標」となり、「KPI目標を達成できたときのゴールはどこなのか?」をあらわす指標のことをさします。
カスタマーサクセスでみるべきKPI
カスタマーサクセスが目指すべきKPIにはいくつかの指標があり、おもに以下6つの指標を目指すのが一般的です。
- 解約率
- オンボーディング完了率
- アップセル・クロスセル率
- 売上継続率(NRR)
- 顧客推奨度(NPS)
- 顧客生涯価値(LTV)
それぞれの指標を独立して追いかけるのではなく、6つのKPIを連動させて考えることも重要です。
たとえば、解約率の低減が難しくなると当然ながら顧客は減っていきますから、アップセルやクロスセルは成功しません。
また、NPS(顧客推奨度」がアップしないとLTVも上がらないでしょう。
連動するKPIを関連部署とも共有しながら、トータルでマネジメントしていく組織も必要になります。
解約率
カスタマーサクセスがもっとも重視すべきKPIは「解約率」です。
カスタマーサクセスの運用を開始し、解約率が下がれば「ひとまず成功」といってもいいでしょう。
カスタマーサクセスが追いかけるべき解約率には、以下2つの指標があります。
レベニューチャーン(revenue churn)=(単価×解約数)÷ 売上
カスタマーサクセスでは、一般的にカスタマーチャーンを追いかけます。
解約率は「1ヶ月ごと」や「四半期ごと」など、定期的に見ていくことも大切です。
また、解約率の数字だけを見るのではなく「なぜ解約が下がったのか?」「どのカスタマーサクセスの行動が功を奏したのか?」など、要因を考えることも重要です。
この記事の最後でも触れますが、顧客管理ツールを使って定量的に検証する必要があります。
オンボーディング完了率
オンボーディングとは、人が船に乗っている状態のことをあらわします。
オンボード完了率が達成できると、顧客(船に乗り込んだ人)がサービスを使いこなせるようになり、船から降りる人「つまり解約顧客」が減ることになります。
オンボード完了率のデータを適正に管理するには、オンライン上で顧客の状況を把握しなければいけません。
たとえば、月額制で販売する会計システムの例で考えてみましょう。
会計システムの販売でオンボード完了率を見ていく場合、利用段階ごとの利用状況をオンライン上で把握していきます。
会計システムでオンボード完了率を管理する例 ※ステップごとのゴール設定
- 導入1ヶ月後…初期設定が完了している
- 導入3ヶ月後…毎月の収支を記録できている
- 導入6ヶ月後…基本的なサービスだけはなく分析機能を上手に使いこなしている
オンボード完了率が高ければ高いほど顧客満足度は向上し、次年度以降の継続率も高くなります。
オンボード完了率を高めるためには、利用初期段階で発生する「顧客のお困りごと」に先回りし、能動的なサポートや研修をおこなうことも重要です。
アップセル・クロスセル率
カスタマーサクセスでは、ARPU(顧客あたりの売上単価)を上げることも重要です。
ARPU向上を達成するにはアップセルやクロスセルも重要なKPIとなります。
アップセルは利用中のサービスを上位グレードにしてもらうことを意味し、クロスセルは既存サービスの関連商材をあわせて購入してもらうことを意味します。
たとえば、ダイエットを目標にしたパーソナルトレーニングジムの例で考えてみましょう。
パーソナルトレーニングジムにおけるアップセル・クロスセルの例
- アップセル…利用回数や利用メニュー数変更による月会費アップ
- クロスセル…プロテインなどの購入や、提携レストランなどの利用
カスタマーサクセスでアップセルやクロスセルを成功させるには、顧客の成功体験や利用頻度を把握し、的確なサポートをおこなうことがポイントになります。
状況によっては、アップセルやクロスセルに有効な料金値引きやキャンペーンなどを実施するのも効果的です。
売上継続率(NRR)
NRRは「Net Retention Rate」の略で、直訳すると売上維持率を指す言葉です。
簡単にいうと「昨年度に獲得した顧客の売上が本年度になってどれくらい維持されているか?」をあらわず指標となります。
一般的には以下の計算式で求められます。
売上継続率(NRR)=B÷A
※A =「前年同月に契約および契約更新した顧客から得られる売上」
B =「Aと同じ顧客から得られる今月の売上」
売上継続率を上げるには、当然ながら利用継続率を維持していくことが重要となります。
また、利用中のARPUを下げないことも大切なポイントです。
売上継続率(NRR)の指標を正確にはかるためには、かならず「顧客単位での前年度売上比較」をしなければいけません。
たとえば、昨年度に獲得した顧客のNRRを算出するときに、期中で獲得した新規顧客の売上を入れてしまうと正確な指標は出せません。
正確なNRRで成果をはかるには、CRMのような顧客管理システムの運営も必要になってきます。
顧客推奨度(NPS)
NPSは「Net Promoter Score」の略で、顧客ロイヤリティをはかる指標のひとつです。
NPSは、以下の計算式でもとめられます。
NPS=「推奨者の割合(%)」ー「批判者の割合(%)」
NPSは、顧客にアンケートを送り以下のように分類していくことで数値を出していきます。
NPSが高ければ高いほど顧客ロイヤリティは高いわけですから、当然ながら利用継続率は上がりARPUも上がっていきます。
NPS算出のための顧客分類方法
推奨者 | 9点~10点の回答者(利用中のサービスを他人にすすめたいと思うグループ) |
中立者 | 7点~8点の回答者(満足でもないが不満足でもないグループ。きっけかがあれば他社に流れてしまうリスクがある) |
批判者 | 0点~6点の回答者(不満を感じており他者にも批判的なコメントをするグループ※解約予備軍) |
ただ、日本人は「推奨する」「批判する」といった極端な回答を控える傾向があり、NPSは正確な指標ではないと考える人も増えてきました。
早稲田大学の論文「日本人消費者を対象とする顧客推奨度指標の最適化NPSからPSJ へ 」に、NPSに関する興味深い記述がありましたので参考までにご覧ください。
参考:「日本人消費者を対象とする顧客推奨度指標の最適化NPSからPSJ へ 」
早稲田大学大学院教授 木村 達也
http://www.j-mac.or.jp/oral/fdwn.php?os_id=263
顧客生涯価値(LTV)
LTVとは「LIfe Time Value」の略で、1件の顧客から得られる「顧客生涯価値」をあらわす指標のことです。
LTV=顧客単価×契約継続期間
LTVをあげるには、顧客単価アップと利用継続期間の延長が重要になってきます。
カスタマーサクセスでは、アップセルやクロスセルを通じて顧客単価アップをはかります。
利用継続中に能動的なサポートを続けることで、利用継続率を上げることも重要です。
つまり、LTVを上げるためには、上記でご紹介した解約率の低減やオンボード完了率のKPIが重要になってくるのです。
いまや、どの業界でもブルーオーシャンの市場で闘うことは難しく、レッドオーシャンの波にもまれながら1件の売上獲得に執着していかなければいけません。
一般的には1件の新規獲得を狙うより、1件の解約削減を達成するほうが難易度は低くコストも抑えられます。
カスタマーサクセスがうまく機能すればLTVもアップし、結果として企業の収益率向上に寄与できるでしょう。
カスタマーサクセスのKPIを設定するポイント
カスタマーサクセスで重要なKPIが理解できても、適切な指標が設定できなければ「絵に描いた餅」になってしまいます。
効果に直結する理想的なKPIを設定するには、以下のポイントをおさえておくようにしましょう。
- 顧客理解を深める
- 効果測定しやすいKPIを設定
- 定期的な見直し・改善を行う
顧客理解を深める
適切なKPIを設定するには、自社の顧客ニーズや市場環境を捉えることが大切なポイントです。
顧客を理解せずに、予算や中期計画から逆算したKPIを追いかけてしまうと、現場のモチベーションダウンにもつながりかねません。
たとえば、さきほどご紹介した「ダイエット目的でのパーソナルトレーニングジム」の例で、もう一度考えてみましょう。
パーソナルトレーニングジムでの「解約率目標」を立てる場合、根拠なく数値を決めてしまうと現場の納得感も得られず効果の出ないKPIになってしまいます。
パーソナルトレーニングジムで追いかけるべき「理想の解約率」を出すためには、以下の点を理解しておくことが重要です。
- 一般的なジムの利用継続率はどれくらいか?
- 利用者の解約理由はなにか?
- 利用継続に至った動機はなにか?
顧客理解を深め、適切な目標を決めるためには、マーケティング部門など他部署との連携も重要です。
他社データや市場調査の傾向、自社顧客へのアンケート結果などを検証し、実現可能なKPIを設定するように心がけましょう。
効果測定をしやすいKPIを設定
KPIを設定したあとは、定期的に達成率をチェックしていく必要があります。
定期的なチェックのためには、効果測定しやすいKPIの設定も重要なポイントです。
目指す目標が壮大でも「達成数値を出すのに時間がかかる」といった状態になってしまうと意味がありません。
さきほど、解約率やLTVなどの重要なKPIをご紹介しましたが、カスタマーサクセスの効果をはかるには、SFAやCRMなどの管理ツールの導入が必要になってきます。
顧客ごとのサービス利用状況や売上単価を管理し、目指すべきKPIの指標を瞬時に出せるような管理体制も整えておきましょう。
また、主要KPIを適正に管理するには、自部門を管理しているだけでは限界があります。
コールセンターやマーケティング部門、経営企画部門など他部署との連携を図るマネジメント層の充実も大切になってきます。
定期的な見直し・改善を行う
カスタマーサクセスでの主要KPIは、定期的に見直していかなければいけません。
なぜなら、顧客を取り巻く市場環境は日々激しく変化し、顧客が求めるサービスも年を追うごとに変わっていくからです。
目指すべき解約率を一度決めても、競合他社が乱立しはじめると解約率も自然と上がってくるでしょう。
市場環境が変わってきているのに解約率ばかりを重視していては、顧客目線でのカスタマーサクセスとはいえません。
競合が激しい業界なら、単に商材を販売するだけではなく、販売初期段階から関連商材とコラボし解約率を下げるなど商品企画の見直しも必要かもしれません。
一般的には主要KPIが適正に機能しているかは、1年に1度など定期的な見直しをかけて目標数値を変えていくことも重要です。
ただ、目標を変えるといっても単なる下方修正では意味がありません。
関連するKPI目標を調整しながら、トータルで収益を下げない工夫が求められます。
カスタマーサクセスのKPIを達成するためには?
最後に、カスタマーサクセスがKPI達成のためにおさえておくべきポイントをいくつかお伝えします。
カスタマーサクセスのKPI達成には、以下3つの点が重要です。
- 顧客の現状や抱えている課題を把握し、適切なKPIを設定する
- 他部署とのKPIの共有
- ツールの活用
顧客の現状や抱えている課題を把握し、適切なKPIを設定する
繰り返しにはなりますが、KPIを決めるためには「顧客の理解度」が大切になってきます。
カスタマーサクセスを運用する現場では、主要なKPIを個人目標にもブレイクダウンし、個人の業績評価に反映するケースも多いでしょう。
現場と乖離した目標を設定してしまうと、担当者のモチベーションも下がり離職率にも影響してしまうかもしれません。
顧客課題を見極めて、自社の商材に課題解決の糸口があるのかどうかも調査し、結果を真摯に受け止める勇気も必要です。
顧客の課題や要望を満たせないサービスであるにもかかわらず、無理な解約率を求めてしまうと現場からは反発を食らってしまいます。
カスタマーサクセス部門を管理するマネージャーは、商品企画や営業部門とも連携し、顧客の声を商品やサービスに活かす役割も担う必要があります。
他部署とKPIを共有する
KPIを達成するには、他部署とKPIを共有することが重要です。
たとえば、カスタマーサクセスとカスタマーサポートとが連携する場合で考えてみましょう。
カスタマーサクセスでは解約率をおもな目標とし、一方のカスタマーサポート部門ではサポート時間や処理件数を目標とするのが一般的です。
解約率低減を目標にする場合、カスタマーサポートでの問題解決率が、解約率低減にどう影響しているのかチェックしてみることが大切になっています。もしかすると、カスタマーサポートの対応の悪さが解約につながっているかもしれません。
また、カスタマーサクセスを統括する管理者は、他部署との連携で以下のような役割を担う必要があります。
ポイントのみ記載しておきますので参考にしてください。
- 他部署との良好な関係を築く…部署間の調整役となり敵対視しないように双方を管理する
- 経営層への低減…顧客課題やKPIの進捗を経営層に提言し商品改善につなげる
- イニシアチブをとる…カスタマーサクセス部門が中心である自覚をもち、マーケティング部門や商品企画部門へ積極的な提案をする
ツールを活用する
KPIの管理には、費用をかけてでもツールを導入する必要があります。
KPIの管理をExcelなど汎用ソフトだけでおこなうことも可能ですが、限界がありますしミスも起こりがちです。
カスタマーサクセスの運用効果を最大化するには以下のようなツールの導入を検討してみましょう。
カスタマーサクセスに必要なツールの例
- SFA…営業支援システム
- CRM…顧客関係管理システム
- NPS管理ツール…顧客ロイヤリティ管理システム
- VOC管理ツール…顧客の声を管理するシステム
ただし、ツールを導入しただけでは、KPIの達成はできません。
ツールが適正に運用できているかどうかを確認する「管理者の配置」も必要です。
管理者が顧客対応状況の入力状況を定期的に確認し、状況によってはメンバーの指導を含め軌道修正もしていかなければいけません。
まとめ
カスタマーサクセスを運用して顧客満足度向上や収益アップにつなげるには、人員の投入やツールの導入などさまざまな準備が必要です。
しかし、いくら優秀なスタッフや高性能なツールがあっても、目指すべきKPIが的を得ていないと失敗する可能性が高くなります。
今回はカスタマーサクセスが目指すべきKPIや、目標設定のコツなどをご紹介しました。
適正な目標を設定するためには、予算や経営陣の声だけを重視するのではなく、顧客の現実を理解し現場の声を反映させた目標設定が重要といえます。