アップセルやクロスセルを効果的に活用すると、顧客単価は上がりLTVも向上します。
売上向上だけではなく、サブスクリプションサービスでは利用継続を促すきっかけにもなります。
この記事では、アップセル・クロスセルの定義や実際の活用方法も詳しく解説しますので、自社営業施策のひとつとして参考にしてください。
アップセル・クロスセルとは
アップセル・クロスセルの意味を簡単にあらわすと、以下のようになります。
・クロスセル…顧客に関連商品を購入してもらう
それぞれ具体的な施策も違ってきますし、目指すゴールも違います。
アップセルとは
アップセルとは、おもに既存顧客に対して使われる売上アップの営業手法です。
わかりやすい例として、Amazonのプライム会員を例に考えてみましょう。
Amazonの会員なら、誰でもECサイト経由で商品を購入できます。ただ、無料会員は一部送料が有料になったりセールの先行案内が受けられなかったりします。
一方、無料会員からプライム会員(年間4,900円税込み)にアップグレードすると以下特典が受けられます。
Amazonプライム会員の特典 ※一部抜粋
- 送料やお急ぎ便の利用手数料が無料
- プライムビデオやプライムミュージックが利用可能
- KindleやFireタブレットの料金割引
アップセルは、AmazonのようなECサイトだけではなく、さまざまな会員サイトやSaaSサービスなどで活用されています。
既存顧客が利用しているサービスよりも料金は高くなりますが、付加価値を高めることで利用満足度もアップしLTV向上も狙える点がメリットです。
クロスセルとは
クロスセルとは、新規顧客や既存顧客を問わず、関連商品を購入してもらう営業施策のことです。
クロスセルに関しても、Amazonを例に考えてみましょう。
Amazonで商品を購入すると、サイトの下のほうに「よく一緒に購入されている商品」が出てきます。
たとえば、靴を購入すると靴クリームやポリッシャーなどの商品提案が表示されます。Amazonで靴だけを購入するつもりのユーザーが、買い物を終えてみると「付属商品も買ってしまった」といった経験は誰にでもあるのではないでしょうか。
上記のように、クロスセルでは顧客の購入単価(ARPU)アップが、ひとつの目的です。
さきほどのアップセルと同じく、クロスセルで付帯商品を購入することで顧客満足度がさらに向上するメリットもあります。
Amazonと同じようなクロスセルの手法は、ダイエット目的で通うスポーツジムでもおこなわれています。
スポーツジムのなかには、自社で開発したダイエット食品やプロテインなどを会員販売しているところがあり、ジムの会員は特別価格で購入可能です。
専用のダイエット食品とトレーニングの効果で減量を実現できれば、会員の満足度もアップし利用継続も促せます。
アップセル・クロスセルの違い
アップセルとクロスセルは同じような施策に見えますが、目的やアプローチ方法などに違いがあります。あらためて、アップセルとクロスセルの違いをまとめていますので参考にしていただければと思います。
アップセルとクロスセルの違い
アップセル | クロスセル | |
対象 | 既存顧客がメイン | 新規顧客がメイン |
アプローチ方法 | 利用中の顧客に上位グレードへの移行を促す | 新規販売のタイミングで付帯商材を同時購入してもらうよう促す |
ゴール | ARPU向上、LTV向上 | ARPU向上、営業効率向上 |
企業の最終目標は「売上利益の向上」です。ただ、はじめから顧客に高ARPUの商材を購入してもらうとなるとハードルは高くなりますし、顧客からも敬遠されてしまいます。
アップセルを活用する場合なら、しばらくは無料サービスで自社サービスとの親和性を確認してもらい、ある程度利用継続してもらったうえで上位グレードに誘導するとスムーズに売上向上が狙えます。
アップセル、クロスセルが必要な理由
アップセルやクロスセルが重視される理由としては、おもに以下の2点があげられます。
- 競合市場で勝つには既存顧客の利用継続とLTV向上が必要であること
- サブスクリプションサービスが主流になりつつあること
「LTV」とは”ライフタイムバリュー”を意味し、顧客の生涯利益のことを指す指標です。たとえば月額1万円の利用料を頂いている顧客の場合で考えると、LTVを伸ばすには月額料金のアップと利用継続の両方が重要です。
アップセルを上手に活用できれば、顧客単価アップも実現できますし高機能のサービスを利用することで満足度が向上し、利用継続にもつながります。
最近では、サブスクリプションサービスが主流になっている点も、アップセルやクロスセルが重視される理由のひとつです。
会計ソフトで考えると、以前はパッケージソフトの販売が主流でした。しかし、最近ではクラウド型のサブスクリプションサービスを利用するケースがほとんどです。
会計ソフトのようなサブスクリプションサービスでは、高機能サービスへのアップセル誘導がカンタンにできます。また、有料サポートサービスの同時利用などクロスセルによる利益向上も目指せます。
アップセル・クロスセルを行うメリット
アップセルやクロスセルのメリットをまとめると、以下の3点が大きなメリットといえます。
①顧客単価を上げられる
②顧客満足度の向上によりリピートにつながる
③営業効率が良い
顧客単価を上げられる
アップセルやクロスセルの両方に言えることですが、それぞれの施策を活用すれば顧客単価アップが望めます。
企業が収益を上げるには、新規顧客をできるだけ多く獲得する一方で、顧客あたりの売上単価向上も重要です。
ただ、グローバル市場での競争が激化し個人顧客の市場では少子高齢化が進んでいるため、新規顧客数の拡大は年々難しくなっています。
新規顧客の拡大が難しければ、企業としては顧客単価を上げるためにアップセルやクロスセルを活用するしかありません。
新規顧客の拡大は難易度が高い一方で、膨大な人件費や広告宣伝費も必要です。
費用対効果の面で考えても、企業の成長にはアップセルやクロスセルの推進が効果的なのです。
顧客満足度の向上によりリピートにつながる
LTVの向上には、単価アップも重要ですが「利用継続」も大切な要素です。
利用継続向上には、顧客ロイヤリティの向上が重要なポイントになってきます。
顧客は自分が使っているサービスに満足し、サービスや提供企業に愛着が出ると、より長く利用を継続してくれる傾向があります。
SaaSサービスでは無料で利用できるプランもありますが、無料会員で使えるサービスには限界があるでしょう。
たとえば、さきほどの会計ソフトの例でみると、無料と有料には以下のような違いがあります。
例:会計ソフトの無料/有料サービスの違い
無料会員 | 有料会員 | |
使える機能 | 機能制限あり | すべての機能が使える |
利用可能期間 | 期間限定で無料利用が終了する場合がある | 利用料を支払っている期間は継続利用可 |
サポート | なし | 専用サポートあり |
利用満足度 | 低い | 高い |
アップセルやクロスセルが成功すれば顧客満足を高めることができ、リピート購入にもつながります。
営業効率が良い
新規顧客を獲得する場合と比較し、費用をかけずに売上向上が狙える点もアップセルやクロスセルのメリットです。
たとえばBtoBの営業商材を販売する企業で考えると、新規顧客拡大には以下のような費用が必要になってきます。
- WEB施策に必要な費用(サイト構築やSEO対策費用、インサイドセールスの人件費)
- リスト購入やアポイント獲得に必要な費用(外注費用や人件費)
- フィールドセールスにかかる費用(人件費、車両交通費など)
一方、新規開拓にはそれほど力を入れず、既存顧客のアップセルやクロスセルに注力すれば上記の費用は圧縮できます。
また、費用を圧縮できるだけではなく既存顧客の満足度向上にも寄与できるため、より高いLTVが期待できるでしょう。
アップセル、クロスセルに適したタイミング
アップセル、クロスセル施策で成果を出すには、それぞれの施策に適した「タイミング」があります。
・クロスセルに適したタイミング…商品購入直後や利用中
SaaSサービスの提供でアップセルをする場合、サービス導入の検討段階で「どうせなら無料よりも有料のほうがお得かも?」「無料はいいけどデメリットも多いのでは?」といった感情を抱かせると効果的です。
無料から有料、低価格プランから高額プランへ移行してもらう場合は、オファーを別途用意するなど、キャンペーン施策も有効かもしれません。
一方、商品購入直後にクロスセル施策を実施する場合は、「ほかのユーザーも合わせ買いしている人気の商品」「商品の付加価値をさらに上げるサービス」などをタイミングよく訴求するのが成功の秘訣です。
アップセルやクロスセル施策を効果的に実施するには、WEBサイトの再構築など、ユーザーが認識しやすい宣伝方法を検討する必要もあるでしょう。
アップセル・クロスセルのポイント
アップセルやクロスセルを実施する場合、やみくもに施策を実施しても効果は出ません。
実施前には、以下4つのポイントをおさえておくようにしましょう。
①どんな商品が求められるのか分析する
②販売データなどをもとに仮説検証を行う
③顧客ロイヤリティを向上させてから提案する
④最適なタイミングで提案する
どんな商品が求められるのか分析する
施策実施の際は、決して「押し売りにならないよう」注意が必要です。
販売側がやみくもに売りたい商品を提示するのではなく、実際の販売データにもとづき人気がある商材を提案するようにしましょう。
たとえば、購入時に「購入者の約80%が〇〇のサービスを利用しています」といった明確なデータを提示できれば、より説得力のある施策になります。
さきほどご紹介したようなAmazonの例でも、商品購入時にプライム会員へのアップグレードを提案し「いま会員になれば送料無料、お急ぎ便が無料」などと提案されると、ついプライム会員への加入を検討してしまうかもしれません。
アップセルやクロスセルでは、常に顧客のメリットを第一に考えることが大切です。
販売データなどをもとに仮説検証を行う
アップセルやクロスセル施策で成果をあげるには、実際の販売データをもとに仮説検証を繰り返し、PDCAを効果的にまわしていくことも重要です。
定期的な販売データの検証や顧客アンケート調査の内容をもとに「売れ筋の商品、人気の商品」を提案していくようにしましょう。
販売データをもとにした施策は、ECサイトでのアップセルやクロスセルだけではありません。店舗販売でも同じことがいえます。
たとえば、食料品スーパーでも野菜売り場の付近に売れ筋の「鍋つゆ」を展示し、ユーザーが合わせて買いやすいようにする方法もあります。一緒に陳列する商材は、実際の販売データをもとに、単品でも販売実績の高い人気の商品を選ぶと効果的です。
もし効果が出ないなら、一緒に提案する商材がミスマッチしているか提案の方法を変える必要があるかもしれません。
顧客ロイヤリティを向上させてから提案する
無料ユーザーや安価なプランで利用している顧客であっても、顧客から信頼されない企業からの提案は拒否されてしまいます。
アップセルやクロスセルを成功させるには、顧客ロイヤリティを向上させておくことも重要です。
たとえば、会計ソフトのサブスクリプションサービスを提供する場合でも、無料でも利用に不便がない最低限の機能を使えるようにしたり、無料会員でも参加できるウェビナーを開催することで顧客満足度の向上が期待できるかもしれません。
顧客ロイヤリティの向上には時間がかかります。
SaaSサービスを提供している企業の場合は、顧客の信頼を勝ち取るには最低でも1年以上かかるのが一般的です。
アップセルやクロスセル施策で結果を出すには、顧客サポートに必要なカスタマーサポートやフィールドサービスの人員強化など、別のコストが必要になることも忘れてはいけません。
最適なタイミングで提案する
各施策で結果を出していくにはタイミングも重要ですが、効果的なアップセルやクロスセルのタイミングは、商材はもちろん顧客によっても違います。
BtoB関連の商材を扱う企業の場合は、顧客が社内で課題を抱えるタイミングや予算作成のときに提案すると成約に結びつくかもしれません。
たとえば、確定申告までサポートできるようなソフトを販売する会社の場合は、顧客が確定申告について考えはじめる11月か12月頃にアップセルを提案すると効果的です。
企業によっては、費用を捻出できるタイミングも違います。
A社の予算作成時期は1月でも、B社は11月に次年度予算を作成するかもしれません。
BtoB営業をしている企業の場合、営業担当が日々のコミュニケーションで先方企業の予算スケジュールなどを把握し、ベストなタイミングでアップセルやクロスセルを提案するよう心がけましょう。
まとめ
市場競争が益々厳しくなってきた昨今、アップセルやクロスセル施策を上手に活用し、既存顧客の売上を1円でも上げることが必要になってきています。
ただ、アップセルやクロスセルは計画的におこなうことが大切です。そのためには、普段から顧客データをきめ細かく管理し、顧客の購入動向や市場動向も把握しておくことも忘れてはいけません。
各施策を効果的に実施するには、顧客管理のシステムのDX化も必要になるなど、社内システムの充実もあわせて検討するといいでしょう。