競争が激化する市場で成果を出すために、さまざまな業界でCRMの重要性が高まってきています。顧客管理に重要なCRMを推進していくには、CRMの言葉の意味や導入のメリットデメリットについて理解しておくことが必要です。
今回は「CRMとはなんなのか?」「CRM導入のコツや注意点」について詳しく解説します。
CRMとは
CRMとは、Customer Relationship Managementの略です。
CRMは顧客管理や顧客育成、顧客との関係性向上を実践する仕組みのことを指します。
CRMは「顧客育成管理そのもの」を意味しますが、実際の現場では「CRM=顧客管理システムのツール」と認識されるのが一般的です。
CRMを導入しない企業が顧客管理をする場合、どうしても顧客管理が曖昧になったり営業担当者の属人的な管理に任せてしまう傾向があります。顧客データをExcelなどの汎用ソフトで管理する企業も多いのではないでしょうか。
しかし、汎用ソフトでの管理はミスが出る可能性もありますし、専用システムと比較すると分析能力の面で劣ります。また、ほかのITツールとの連動ができないなどのデメリットも発生するでしょう。
CRMを導入すれば、社内スタッフ全員が顧客の状況をリアルタイムで把握できるようになります。顧客に提案すべき商材はなんなのか?どんな課題解決が必要なのか?など、顧客にとって必要な情報もひと目でわかるようになります。
CRMとSFAの違い
CRM導入についてインターネットで情報を調べると、頻繁に「SFA」という言葉が出てきます。CRMもSFAも、顧客データを確認する意味では同じです。
ただ、SFAは顧客管理というよりは「営業プロセス管理」に重きが置かれたITツールです。
CRMとSFAの違い
システムの内容や特徴 | |
CRM | ・顧客管理ツール、顧客育成システム |
※Customer Relationship Management | ・顧客情報を一元化し、顧客が必要としている情報や、対応すべき次のアクションがわかる |
SFA | ・営業支援システム |
※Sales Force Automation | ・営業担当者の行動管理に重きが置かれたシステム(営業の接触数、プレゼン数、成約数や率などの分析が可能) |
上記のようにCRMとSFAは別のシステムですが、それぞれ連動させる必要もあります。
たとえば、営業担当者がSFAで入力した営業対応結果をCRMに反映させると、後日顧客から入電があった際も、前回の営業結果をもとにした電話対応が可能になります。
CRMがなぜ重要なのか
CRMの仕組みを導入するには、当然ながら費用も手間も発生します。しかし、費用をかけてでもCRMを導入するには、それなりの理由があります。
CRMの導入が重要である理由は、以下3点です。
効率化とコスト削減 | 属人的な顧客管理をするより、システムで管理したほうが効率もよくコスト削減につながる |
市場の縮小・変化 | レッドオーシャンの市場で顧客の信頼を勝ち取るためにはCRMの導入は不可欠 |
インサイドセールスの台頭 | 担当者が入れ替わる可能性の高いインサイドセールスでは、オンラインツールで顧客の情報を一元管理する仕組みが必要 |
効率化とコスト削減
1件1件の顧客情報を管理したり閲覧したりする場合、従来の属人的な管理や汎用ソフトでの管理だと以下のリスクが発生します。
・情報閲覧に時間がかかる
・定量的な分析ができず担当者のイメージだけで顧客対応方針が決まってしまう
上記のリスクが発生すると情報確認に時間を要しますし、顧客とのトラブルが発生するとクレーム解消に時間と労力をかける必要も出てきます。
CRMを導入すれば、上記のような「ムダ」が発生することもありません。
顧客育成の観点で見ると、成約に至るまでには「メール配信」「ウェビナーの開催」など、さまざまなマーケティング手法を実行に移していく必要があります。
CRMが軌道にのるとマーケティング部門との連携ができるようになるため、顧客が必要とする課題やタイミングに合わせ、ベストなタイミングでプロモーション活動をすることも可能になります。
市場の縮小・変化
国内外を問わず、競争が激しい市場で戦うには「顧客からの信頼」がもっとも重要です。
低価格だけを追求するなら、海外拠点で作られた商品を売ったり仕様を変更することで対応できるかもしれません。しかし、長期的に企業が成長していくには、顧客から長期で信頼されるサービスを提供し、顧客1件あたりの「LTV(顧客障害価値)の向上」が重要です。
サブスクリプションサービスを提供している企業の場合、LTVは顧客あたりの売上単価×利用年月によって求められます。
属人的な顧客管理に依存している企業では、顧客からの信頼を損ねてしまう可能性も高く、購入継続率は低くなりLTVも下がってきます。
一方、CRMを導入すれば多様化する市場でも顧客流出を防ぎ、LTVの向上とともに売上拡大に結びつけることもできるでしょう。
インサイドセールスの台頭
従来のBtoB営業の現場ではフィールドセールスに重きがおかれ、顧客管理も営業担当者の属人的な管理に依存する傾向がありました。
しかし、業務効率化が重視され社会情勢も変化していくなかで、フィールドセールスからインサイドセールスにシフトする企業も増えてきているのが現状です。
インサイドセールスでは、さまざまなオンラインツールを通じて顧客と接触し、担当者も都度変わる可能性があるため、PCの画面上で顧客情報を一元管理することが求められます。
たとえば、インサイドセールスで顧客からの問い合わせに対応する場合で考えてみます。
CRMを導入すると顧客管理の共有も簡単になるため、前回対応のAさんが提案したことをBさんが把握したうえで対応すれば当然ながら成約率は上がるでしょう。
また、インサイドセールスでの対応結果をリアルタイムでCRMに反映することで、今後のマーケティング活動に活かすことも可能です。
CRMの基本機能
CRMの重要な基本機能は以下の3つです。
- 顧客管理
- 顧客分析
- プロモーション管理
上記に付随する機能として、「担当者の行動管理機能」や「タスクスケジュール管理機能」などを備えたCRMツールもあります。
顧客管理
CRMでもっとも重要な基本機能は「顧客管理機能」です。一例をあげると、以下の情報が管理できるようになります。
・購入履歴…顧客の商品購入履歴(商品名、価格、購入時期)。サブスクリプションサービスであれば次回更新スケジュールなど
・対応履歴…問い合わせ履歴、クレーム対応履歴、次回接触で必要なアクション
・決済管理…代金回収履歴、不良債権の内容
上記のなかでも「過去対応履歴の閲覧機能」は非常に重要な機能です。
過去にクレーム対応をした顧客の情報を管理できていないと、火に油を注ぐ結果となり信頼失墜の原因にもなりかねません。
顧客分析
CRMで顧客分析をする場合は、以下のような機能が使えます。
- RFM分析…顧客のリピート率や購入意欲などの分析が可能
- 顧客セグメンテーション…顧客層をグルーピングしマーケティングと連動させる機能
- CTB分析…顧客の次回購買行動を予測する機能
※C…Category(カテゴリ)、T…Taste(テイスト)、B…Brand(ブランド)の略
上記の機能のなかで比較的利用頻度が高いのは「RFM分析」でしょう。
限られた予算のなかで最高の営業成果を出すには、もっとも購買意欲の高い顧客層にターゲットを絞りアプローチする必要があります。
人件費と広告宣伝費をかけながら成果を出していくには、RFM分析をもとに高ARPUの購入意欲の高い顧客を優先して営業すると効果的です。
プロモーション管理
マーケティング部門と連携しながら顧客提案をするときに有効な機能が「プロモーション管理機能」です。
たとえば顧客にメールを送ったりDMを発送したりする場面では、むやみやたらに一斉送信しても効果は半減します。
CRMの分析機能を使って顧客をセグメンテーションし、自社商材の購入対象になる確率の高いユーザーにプロモーションができれば、費用対効果の高い営業ができるでしょう。
また販売商材にもよりますが、顧客の行動トレンドを分析する機能も活用できます。
「〇〇の季節には30代女性からの購入率が上がる」といったトレンド分析ができれば、対象となる時期と顧客に的確なプロモーションが打てるようになります。
CRM導入のメリット
CRMの導入のメリットとしては、おもに以下の3つがあげられます。
- 顧客情報を一元管理できる
- データ分析を行いマーケティング施策に活かせる
- 業務効率化が期待できる
部署を問わずリアルタイムで顧客情報の一元管理ができる点は、CRM導入の最大のメリットといえます。
顧客情報を一元管理できる
個人事業主ならともかく、1件の顧客に多数の部署がかかわる企業では、顧客情報の一元管理はとても重要です。
CRMを導入していない企業では、顧客の情報共有が遅れたり間違った情報が連携されるリスクも発生します。
安定した利益を出し続けるには、顧客の与信判断も経営上重要な要素です。CRMを導入しないと、代金回収リスクが発生する場合もあります。
未払い情報が営業に共有されないため、リスクが高い顧客に新規営業をかけてしまうといった事態が発生するかもしれません。
また、インサイドセールスやコールセンターで顧客対応をする場合、1件の顧客に複数名のオペレーターが対応するケースも発生します。オペレーターごとに対応品質が変わってしまうと、顧客からの信頼も失いかねません。
CRMを導入すれば、リアルタイムで過去の対応履歴がわかるため「前回の担当に言ったことが社内で共有されていない!」などのクレームも回避できます。
データ分析を行いマーケティング施策に活かせる
CRMを導入しプロモーション部門と顧客情報を共有できれば、今後のマーケティング施策に活用できるかもしれません。
WEB広告やSNSでのプロモーション・ウェビナーや展示会などのマーケティング活動は、常に費用対効果を分析し、PDCAをまわしていくことが重要です。
プロモーションの内容と顧客の反応を分析できれば、「どの施策で効果が出たのか?」「顧客の興味があるポイントはなにか?」が把握でき、プロモーションの方向性を検討する材料にもなります。
顧客をセグメントし、新規顧客と既存顧客とでマーケティング手法を変えることも可能です。
新規顧客からの受注拡大を目指すには、顧客が抱えている課題に気づいてもらうメールやウェビナーの案内を送ると効果的です。既存顧客には購入継続のキャンペーンを展開するなど解約阻止に関するプロモーションをすれば、さらなるLTV向上を目指すこともできるでしょう。
業務効率化が期待できる
CRMの導入には「業務効率を上げられる」メリットもあります。
たとえばCRMとSFAを連動させておくと、営業担当者は外出先でも顧客情報を閲覧できますし、営業結果も外出先で入力できるようになります。したがって「顧客情報の確認のために帰社する必要がある」「上司報告のための帰社がムダ」といった問題も解消できるでしょう。
人事異動が頻繁におこなわれる企業では、異動による”情報伝達の漏れ”も防げます。前任者の属人的な管理に任せていると「前の担当はうまくやってくれてたのに…」といったクレームも防げます。
CRM導入のメリットは、マネジメント側の管理者も実感できるでしょう。
従来の管理方法では過去の成功体験にとらわれた顧客分析をしてしまうことで、プロモーション方針を見誤ってしまうケースがあったかもしれません。
CRMで分析した精緻なデータがあれば無駄な広告費用を使うこともありませんし、販売戦略会議の時間短縮にもつながります。
CRM導入の課題
CRMの導入には、メリットだけではなくデメリットもあります。
とくにコスト面でのデメリットについては十分理解したうえで、導入を慎重に検討する必要があります。
CRMの導入で失敗するケースとしてもっとも多いのが「経営層がシステムを導入することだけで満足してしまう」パターンです。
CRMの導入で効果を出すには、経営層の覚悟と「利用を定着させる体制の確立」が必要になります。
導入コストがかかる
CRMの導入には、当然ながらコストがかかります。必要なコストをデメリットと考えるか、成長のための投資と考えるかは経営層の判断次第です。
ただ、限りある予算のなかでコストを捻出するにはリスクもありますし、費用以上の効率化も求められます。
一般的に、CRMのシステムにはクラウド型とオンプレミス型の2種類があります。
クラウド型はWEB上のシステムにログインする形式のもので、初期費用が抑えられる一方でアカウントあたりの月額使用料が必要です。
一方、オンプレミス型は自社にサーバーを設置し運用する仕組みになっており、初期費用のほかにもライセンス使用料も必要なケースがあります。
CRMの導入がはじめての場合は、初期費用が安いクラウド型でサポート費用込みの月額利用料を支払いながら運用していく方法がオススメです。
運用フロー整備などCRMの利用が定着するまでのコストがかかる
CRMを導入して成果を出すためには、CRM利用を定着化させるための取組みがもっとも重要なポイントになります。
CRM導入を軌道にのせるためには、担当者ひとり一人の意識を統一し「データ入力を徹底すること」が大切です。「自分には関係ない…」と対応結果の入力をおろそかにしたり、慣れないシステム操作を避けて旧態依然の管理方法に固守してしまうと、まさに宝の持ち腐れになってしまいます。
CRMを導入したあとは、社内の専任チームも立ち上げる必要もでてきます。専任チームの人件費などコストがかかる部分は否めませんが、他業務と兼務にしてしまうと運用が中途半端になりがちです。
CRMの導入を外部コンサル会社に依頼する場合でも、社内で責任を持つ部署はかならず設置するようにしましょう。
失敗しないCRMの導入のポイント
最後に、CRM導入を成功させるための2つのポイントについてお伝えします。
はじめて社内にCRMを導入する場合は、①スモールスタートでの導入を心がける ②社内周知を徹底する、といった点が重要です。
スモールスタートで導入する
CRMの導入には、他部署との連携やITツールとの連動がキーポイントとなります。
CRM単体で導入効果を出すことは難しいため、SFAなどの他ツールとの連動が必要です。
ただ、はじめから大規模な導入はオススメできません。導入当初は「どのツールと連動させるのか?」「導入サポートに必要な人員はどれくらいか?」などを考えながら、スモールスタートで導入することをオススメします。
専任部署を立ち上げずに、いきなり大規模なシステムを導入してもCRM導入の効果は得られないでしょう。
CRM導入で成功するためには、「導入効果を出しやすいチームに先行導入する」方法がオススメです。
社内スタッフ全員が一斉スタートでCRMを利用するのではなく、CRM導入に協力的なチームに限定して先行導入を検討してみましょう。
導入効果を定量的に示すことができれば、本格導入の際に社内スタッフの協力も得やすくなります。
社内での周知を徹底する
導入の専任チームを立ち上げたら、システムの内容周知はもちろん、実際の活用事例などの社内共有も大切になってきます。
CRM導入でつまづきやすい点として多いのが、「昔の管理方法のほうが慣れているから」と、新しいCRMシステムを利用しようとしないケースです。
専任チームに任命されたスタッフは、社内から苦言を言われたとしても粘り強く研修を繰り返すなど、社内周知を徹底していかなくてはいけません。
CRMの使い方を説明する場合には、単に操作面の説明に終始するのではなく、経営層から導入意義について強いメッセージを出してもらうなど社内調整も重要です。
導入がはじまったら、利用者の意見を共有していくことも大切なポイントになってきます。
「新しいシステムで顧客にベストな提案ができた」「情報の共有ができたことでリスクを回避できた」など成功事例が社内で飛び交うようになれば、スタッフの関心も高まります。
分析と改善を繰り返す
CRMの導入効果は、一朝一夕で現れるものではありません。最短で結果が出たとしても半年程度、長い場合には効果が出るまでに1年~2年かかるケースもあります。
CRMを導入して結果を出すためには、焦らずにPDCAをまわしていくことが重要です。
効果検証には定性的な部分を見極める必要もありますが、可能なかぎりKPIを設定し定量的に導入効果を分析していくことも大切になってきます。
たとえば、マーケティング部門と連動させてプロモーション活動による効果検証をする場合は、プロモーション別の成約率や利用継続率の分析が重要です。
分析改善を繰り返していけば、プロモーション内容やリードナーチャリングの方法のどこに課題があるのか結果も見えてくるでしょう。
まとめ
BtoB営業やBtoC営業を問わず、DX化が進む社会ではCRMの導入は不可欠です。
CRMを導入すれば顧客管理の業務効率も飛躍的に向上しますし、マーケティング部門やインサイドセールスと連携することで、費用対効果の高いプロモーション活動をおこなうことも可能になります。
ただし、導入するには費用もかかりますし専任チームの配置も必要です。導入にはいくつかのハードルを超える必要もあるため、できれば専門のコンサルティング会社への相談をオススメします。