帝国データバンクは、国内26,000社以上の企業を対象に、DX推進やリスキリングへの取組みについて実態を調査した。
2021年9月にデジタル庁が発足し、企業におけるDX化が求められるようになってから、すでに1年が経過している。また、個人の成長分野を目指すための学びなおし「リスキリング」にも注目度が高まっている。岸田首相は企業のDX推進を新しいビジネスの誕生やビジネスモデルの変革につなげたいとし、「科学技術イノベーション」「スタートアップ」「GX」「DX」の4分野で官民の投資を加速させる方向性を打ち出している。個人のリスキリングについては「5年間で1兆円規模の公的支援を実施する」と表明しており、今後ますますDX化とリスキリングへの取組みが企業側にも求められそうだ。
アンケート調査の概要
調査結果の概要は以下のとおり。
2.従業員規模で見ると、社員1,000人超の企業は半数近くDX推進に取り組んでいることがわかった
3.DX推進で企業が抱える課題は「DX人材やスキル/ノウハウの不足」で全体の4割超を占める
4.すでにリスキリングに取り組んでいる企業は全体の48.1%。あたらしいデジタルツールなどの学習が進んでいる
5.デジタルスキルを備えた人材確保のため、兼業や副業人材の外部からの受け入れを前向きに検討している企業は全体の2割
◆アンケート対象…全国2万6,494社の企業が対象※有効回答企業数は1万1,621社(回答率43.9%)
◆アンケート期間…2022年9月15日~9月30日
◆詳細データ掲載先…景気動向オンライン(https://www.tdb-di.com)
DXの意味を理解し取り組んでいる企業は全体の15.5%
調査対象の企業に「DXについてどの程度理解し取り組んでいるか?」を尋ねた設問に対しては、「言葉の意味を理解し取り組んでいる」と回答した企業は全体の15.5%にとどまり、DX推進が進んでいない実態がみてとれる。
ただ「意味を理解し取り組みたいと思っている」企業は24.2%で、さきほどの「言葉の意味を理解し取り組んでいる」と回答した企業と合わせると、全体の4割近くある。DX化の進捗が思わしくないなかではあるが、DX推進の必要性については認識し、前向きに取り組もうとしている企業の姿勢は見られた。
回答例
回答例の一部も見ていきたい。DX推進専門部署の立ち上げや外部連携によりDX化を推進している企業がある一方、DX推進の意味さえも理解できていない企業も多く、企業間で浸透度にバラつきがある結果となった。
ポジティブな回答 | ・DX推進部署を新設し社内人材を配置転換。成果も上がっている(一般貨物自動車運送/東京都) ・DX推進については外部専門企業との連携にて進めている。先々を見据えて社内人材も増やす必要性を感じている(電気配線工事、熊本県) |
ネガティブな回答 | ・言葉の意味を理解しているが、取り組んでいない(35.3%) ・言葉は知っているが意味を理解できない(12.4%) ・言葉も知らない(5.4%) |
DXへの理解と取り組み
※言葉の意味を理解し取り組んでいる企業の割合/規模別従業員数別
「言葉の意味を理解し取り組んでいる」と回答した企業を規模別でみると、大企業の26.6%がDX推進をすでに取り組んでおり、つぎに中小企業の13.5%、小規模企業の8.8%と規模が小さくなるにつれてDX推進が進まない実態がわかる。従業員数別でみると、1,000人超の従業員を抱える企業の47.8%がDX化に取組み済であり、301人~1,000人が34.4%、101人~300人が24.3%と続く。
DX推進には専門スキルやノウハウを有した人材が必要であり、社内の人材活用や外部コンサルなどへの費用捻出が難しい中小企業においては、やはりDX推進を進めたくてもできない事情が見え隠れする。
DXの「言葉の意味を理解し、取り組んでいる」企業の割合 ~規模別、従業員数別~
DXに取り組むうえでもっとも多い課題は「対応できる人材がいない47.4%」
DXに取り組むうえでの課題については「対応できる人材がいない(47.4%)」、つづいて「必要なスキルやノウハウがない(43.6%)」と続く。
前述のとおり、DX推進にはITスキルを備えた人材を専門部署に配置することや、経営層のDX推進に関する理解を深める動きも大切な要素である。専門業者やコンサルティング会社にDX推進を依頼する方法もあるが、継続したDX推進を続けるにはスキルを持った社内スタッフを常駐させることも必要だ。
そのほかの回答を見ると「対応する時間が確保できない(33.3%)」「対応する費用が確保できない(27.5%)」と、普段の業務と兼務しながらのDX推進には厳しい現実があるようだ。中小企業においてはDX推進に必要な費用捻出も難しく、人材確保と費用面の二重苦でDXを推進できない実態も垣間みえる
回答例
・従業員にDXの考え方を定着させることが難しい(配管冷暖房装置等卸売、熊本県)
・職員の高齢化が進み、対応できる人材が少ない(一般乗用旅客自動車運送、北海道)

リスキリングへの取組みが進んでいる企業は全体の48.1%
リスキリングに関する設問に対しては、「取り組んでいる」と回答した企業が48.1%と、全体の約半数を占めた。一方で「特に取り組んでいない」と回答した企業も41.5%あり、リスキリングに関しては二極化している状況だ。
リスキリングの具体的な取組み内容を見ると、「あたらしいデジタルツールの学習(48.4%」がもっとも多く、つづいて「経営層による新しいスキルの学習、把握(38.6%)」と続く。昨今の社会情勢の変化により、顧客とのコミュニケーションや社内連絡もチャットツールやオンライン会議システムを使うケースが増えている。特に中高年の従業員については、オンラインツールに関する学習に取り組まないと実務が進まない実態があるのかもしれない。
そのほかの回答については「従業員のデジタルスキルの把握、可視化(32.3%)」や「経営層から従業員に学習が必要なスキルを伝達(29.5%)、「eラーニング、オンライン学習サービスの活用(28.2%)」など、やはりITツール関連の学習に取り組むケースが多いようだ。
回答例
・DXに対応する知識・技術を教育するのが困難で効果があると見込まれるIT関連資格をいくつか提示し、社員に資格取得を奨励している(電子応用装置製造、大阪府)
・スキルマップの整備(機械同部品製造修理、新潟県)
・現在いる従業員をDX学校へ受講させIT導入士の資格を取得。外部のDXに詳しい人材と毎月打合せをしている」(織物卸売、北海道)
・リスキングについては、従業員ではなく経営者に対する教育の機会による補助金制度を創設してほしい(土地売買、愛知県)
・政府からのリスキリングに関する補助政策が欲しい」(ソフト受託開発、神奈川県)

デジタルスキルを有する兼業副業人材の受け入れは62.7%が「今後も予定せず」
企業内でDX化を推進していくには、デジタルリテラシーと社内調整力を兼ね備えた人材が必要である。一方、中小企業においてはDX推進に求められるスキルを持った人材が少なく、兼業や副業人材を含めた「外部からの人材補てん」も検討していかなければならない。
しかし、今回の調査で「デジタルスキルを持った兼業副業人材の受け入れ」について尋ねたところ、「兼業副業人材を受け入れている」と「外部から兼業副業人材を募集している」と回答した企業は、両方合わせても5%に満たない。「現在受け入れていないが今後受け入れを検討している」と回答した企業も17.4%にとどまり、必要な人材が足らない一方で、どのようにしてDX推進に必要な人材を集めればよいのか苦慮している実態が見えてきた。
下記の回答例にもあるが、兼業副業人材の活用方法は知っているものの、正社員ではないスタッフに機密データを提供することに不安を抱えている企業も多くみられる。また兼業人材を受け入れると、本業と兼業を合算した労働時間が増えてしまい、時間外管理を含めた労務管理が複雑化することを懸念している企業の責任者も多いようだ。
兼業・副業の受け入れ状況
回答例
・副業人材は首都圏から受け入れている。圧倒的に首都圏人材の経験値が高い一方、地方では経験値が豊富な人材が探せない(ソフト受託開発、大分県)
・副業人材はスキルが期待できるが、データをみせる勇気がない。情報漏洩が気になる(内装工事、大阪府)
・兼業・副業については関心はあるものの、兼業・副業先との間で時間外勤務部分の扱いなどで導入の障壁がある(樹脂製品加工、埼玉県)
まとめ
帝国データバンクが実施した今回の調査は2021年12月にも実施されている。前回結果と比較すると「言葉の意味を理解し、取り組んでいる」と回答した企業の割合は0.2%しか変わらず、依然として企業におけるDX推進が遅々と進まない状況が明るみに出た結果となった。
具体的な課題については「対応人材がいないこと」「DX推進に必要なスキルやノウハウがない」と回答した企業が大半を占めている。ただ、一方で個人のリスキリングには約半数の企業が取り組んでおり、DX推進の基礎となるデジタルツールの理解を深める学習に前向きに取り組む姿勢も見られる。
しかし、DX推進に前向きな企業ばかりではない。リスキリングに取り組んでいない企業も全体の41.5%と多く、ITスキルを備えた兼業副業人材の受け入れについても否定的な企業が全体の6割を占める。DX推進に踏み切れない事情は各企業により異なるが、身近な企業でDX化が成功し、あたらしいビジネスモデルが生まれたり革新的な仕組みが開発されるなど「DX推進の成功事例」が共有されていないことも要因のひとつであろう。
少子高齢化で労働人口が不足するなか、限られた人材でこれまで通りの企業実績を出すには、DX化の推進により業務効率向上や収益改善を実現させる、そしてこれまでになかった利益を生み出す新しいビジネスモデルの構築も不可欠といえよう。
企業の人手不足感と兼業・副業の受け入れ状況
調査データおよび問い合わせ先
◆帝国データバンク「DX推進に関する企業の意識調査」(2022年1月発表)
https://www.tdb-di.com/special-planning-survey/sp20220119.php
◆問い合わせ先】
・株式会社帝国データバンク 情報統括部
・担当:池田 直紀氏、杉原 翔太氏 TEL:03-5919-9343 E-mail:keiki@mail.tdb.co.jp
参考URL/画像引用元:PRTIMES DXに取り組んでいる企業は15.5%、人材不足が課題 兼業・副業人材の受け入れ、2割で前向きに検討 DX推進に関する企業の意識調査(2022年9月)