BtoBやBtoCの営業現場においては、以下のような悩みを抱える組織も多いのではないでしょうか?
- トップ営業と低迷者の差が激しく、業績が安定しない
- 営業ノルマに対するストレスが高く、従業員満足度が下がっている
- セールストークやプレゼン資料などが属人化しており、成功事例の共有ができない
上記のような悩みを解決できる仕組みが「セールスイネーブルメント」です。
今回はセールスイネーブルメントが注目される背景や効果、導入までのプロセスについて解説します。
セールスイネーブルメントとは
セールスイネーブルメント(Sales Enablement)とは、簡単にいうと「営業の仕組み化」のことです。
セールスイネーブルメントと呼ばれるツールがあるわけでも専門職があるわけでもなく、社内で「売れる仕組みをつくること」をセールスイネーブルメントと呼びます。
セールスイネーブルメントが導入されていない企業では、以下のような課題を抱えるケースが多々あります。
- 新人のトレーニングが体系化できず、人によって成長度合にバラつきがある
- トップ営業のトークや資料などのナレッジが共有されず、属人的な運用になっている
- 営業プロセスのログがとれず、どこの施策に課題があるのかがわからない
一方、セールスイネーブルメントを導入し、営業の仕組み化に成功した企業では以下のような効果が得られます。
セールスイネーブルメントの導入効果
- 画一的なトレーニングプログラムが運用できるため、いち早く新人を育成できる
- トップ層が使うナレッジの共有ができるため、低迷層の底上げが容易にできる
- 営業プロセスごとの課題が明確になるため、早期改善が可能
セールスイネーブルメントは、2010年頃から米国で注目され導入が進み、いまやアメリカの大企業はもちろん中小企業の約70%に導入されています。一方、日本でも社会情勢の変化により従来の営業手法が通用しなくなり、働き方もリモートワークを中心とした手法に変わってきました。
日々変わりゆく社会に対応していくためにも、セールスイネーブルメントを導入し「営業の仕組み化」を確立させる企業は増えつつあります。
セールスイネーブルメントが注目される理由
セールスイネーブルメントが注目される背景には、以下の理由があります。
- セールスイネーブルメント市場規模が拡大している
- 実際の現場では、営業活動の属人化が課題になっている
- マーケティング活動によるリードの質と量が向上し、営業現場のクロージング力強化が急務になっている
一昔前の営業現場なら「営業スキルは先輩社員から盗んで学べ!」などと言われるのが一般的でした。しかし、現在の営業現場では非対面営業などが主流となり、営業スキルはデジタルツールを使って共有する仕組みが求められています。
グローバル市場での商品競争力も高まり、スピード感ある営業力の強化が求められるいまの時代、ますますセールスイネーブルメントに注目が集まっています。
セールスイネーブルメントの市場規模拡大
セールスイネーブルメントは、法人営業をメインとする企業などから注目され、年々市場規模も拡大しています。さきほどのとおりセールスイネーブルメントは2010年頃からアメリカで普及しはじめ、2022年度の日本での市場規模も「30億円を超える」と言われています。
セールスイネーブルメントツール市場の2022年度までの平均成長率は17.2%とも予想されており、今後ますます拡大する市場であることがおわかりいただけるでしょう。
参考:ITR、国内のセールス・イネーブルメント・ツール市場規模推移および予測を発表
「セールス・イネーブルメント・ツール市場は、注目度が高まり2018年度は前年度比10.7%増の見込み。2022年度までの年平均成長率(CAGR)は17.2%を予測」
https://www.nikkei.com/article/DGXLRSP503581_W9A220C1000000/
日本の企業でも、以下のような成功事例が続々と報告されています。
営業成果の伸び悩みに課題を抱えている企業なら、一度検討してみる価値はあるでしょう。
セールスイネーブルメント導入事例
- A社(BtoB専門の営業)…営業ノウハウの共有に成功し実績向上につなげた
- B社(システム販売)…営業資料などのナレッジ共有を実現し、営業実績の偏りがなくなった
- C社(通信)…トレーニングプログラムを共有し、社員同士が自主的に学び合える仕組みができた
営業活動の属人化が課題に
セールスイネーブルメントがうまく機能しはじめると、営業現場での属人化がなくなり、全体的なボトムアップが図れます。
「優秀な営業マンほど仕組み化されるのを嫌う」といった声は、どの営業現場でもよくあることです。しかし、営業活動の属人化が進んでしまうと、以下のようなことが常態化するリスクもあります。
営業活動の属人化が課題になっている現場の例
- 優秀な営業マンのトークが門外不出になっており、新人に共有されない
- 担当者がバラバラの提案資料を作っており営業実績に差がでる。自由に資料を作ってしまうことからコンプライアンス面でもリスクがある
- 部署間の競争があり、他部署の成功事例が共有されない
市場環境が目まぐるしく変わる昨今、営業担当者の自主的な成長を待っていては市場から取り残されることも多くなってきました。
変化とスピードに対応していくためには、「セールストーク」「提案資料」などのナレッジをすぐに共有できるセールスイネーブルメントの仕組みが必要です。
マーケティング活動によるリードの質と量が向上
セールスイネーブルメントが注目される3つ目の理由としては「マーケティング活動によるリードの質と量の向上」があげられます。
従来の営業現場では担当者だけが知っている顧客ネットワークを活用し、訪問や電話でコンタクトを取りながら成約に結び付けていく手法がメインでした。
しかし、最近ではWEBマーケティングやSNSの活用・MAの普及により、営業担当者の業務量は格段に増えてきています。
案件の量と質が増えているのにもかかわらず、営業担当者のスキルに差があると、デジタル化による効果は最小限にとどまってしまうかもしれません。良質なリードが集められるようになったいまでは、セールスイネーブルメントを社内に浸透させて「誰がどんなときでも最高のパフォーマンスを発揮する」ことが求められるのです。
セールスイネーブルメントに取り組むメリット・効果
セールスイネーブルメントを適切に導入し運用すれば、営業スキルの共有を含め以下のような効果も得られます。
- 個々人の営業力の平準化・底上げ
- 成果の見える化
- 営業活動の効率化
成果が出ない営業現場のほとんどは、以下のような悩みを抱えるケースが多いものです。
「課題はなんとなく理解できているが、なにを改善すべきかがわからない」
「毎日の業務に忙殺され、営業担当者の育成に時間を割けない」
こんな悩みを解決できる仕組みが、まさに「セールスイネーブルメント」なのです。
個々人の営業力の平準化・底上げ
セールスイネーブルメントを導入する最大のメリットは、営業力の平準化がはかれることです。好実績をあげている営業担当者のスキルやトークを全員で共有できますし、逆に低迷している担当者のウィークポイントも明確になります。
ここで、営業実績を出せている強い組織と低迷している弱い組織について、いくつかの視点で比較してみました。
強い組織と弱い組織の違い
強い組織 | 弱い組織 | |
勝ちパターンの共有 | 共有されている | 属人化している |
活動実績の共有 | 瞬時に可視化される | データがどこにあるのか不明 |
スタッフ同士のコミュニケーション | オンライン上でも問題なくコミュニケーションがとれる | 孤立しがち |
新人教育 | 人が育つ仕組みがある | 人が育たない。離職率が高い |
セールスイネーブルメントを導入することによって、上記のような強い組織を目指すことが可能になります。
成果の見える化
セールスイネーブルメントのふたつ目の効果は「営業プロセスの見える化」ができる点にあります。営業現場において成約に結びつけるためには、以下の営業プロセスが重要です。
- リードからのアポや接触
- 接触数に対する商品プレゼン
- プレゼン顧客に対するクロージング
営業実績が低迷している現場では、それぞれの営業プロセスのどこに課題があるのかが曖昧になっているケースがあります。SFAやCRMなどのデジタルツールを導入し、セールスイネーブルメントで各プロセスを数値化していけば、ボトルネックになっている部分が明確にわかります。
たとえば、営業担当者別で見るとプロセスごとに以下のような差があるかもしれません。
営業担当別のプロセス指標の違い
アポ率 | プレゼン率 | 成約率 | |
担当者A | 30% | 80% | 30% |
担当者B | 60% | 80% | 15% |
Aさんは、アポ率は低いものの成約率はBさんの2倍あるため、アポイントスキルを向上させれば営業成果アップも期待できます。一方、Bさんは成約率に課題があるため、Aさんのセールストークや資料などを真似すれば、もっと成果が上がるかもしれません。
このように、セールスイネーブルメントを上手に活用すれば、それぞれのウィークポイントを適格に指導することも可能になります。
営業活動の効率化
セールスイネーブルメントが機能すると、営業の効率化もはかれます。
セールスイネーブルメントによる営業効率化の例
- デジタルツールの導入で報告業務が簡素化される
- 営業プロセス指標の見える化により、低迷要因に素早く対処できる
- トレーニングプログラムが充実し、営業に割く時間が増える
最近では、社会情勢の変化や働き方改革により、営業担当者が実際に現場で稼働できる時間は減りつつあります。限りある時間のなかで最高のパフォーマンスを発揮するには、セールスイネーブルメントによる効率化はとても重要です。
営業で使う資料などナレッジを共有しておくことで、資料をはじめから作ったり社内サーバーで資料を探し回るなど、無駄な時間を使う必要もなくなるでしょう。セールスイネーブルメントは、日々忙しいビジネスパーソンにとっても必要な仕組みといえます。
セールスイネーブルメントを実現するためのポイント
セールスイネーブルメントを導入して結果に結びつけるには、いくつかのポイントをおさえておく必要があります。
企業によってはすべてを自社スタッフで完結することは難しいため、専門の業者にアウトソーシングしたりコンサルティング会社に委託する場合もあります。
セールスイネーブルメントで成果を出すためにおさえておくべきポイント
- CRM/SFAツールを用いてデータを蓄積する
- 営業施策毎の成果に対する貢献度を把握する
- 営業ノウハウを共有して属人化を防ぐ
CRM/SFAツールを用いてデータを蓄積する
セールスイネーブルメントで成果を出すには、SFAやCRMなどのデジタルツールを最大限活用することがポイントになってきます。
CRM…顧客管理ツール
ただし、上記のツールは導入するだけでは意味がなく、営業現場で起こるさまざまな成果や失敗をデータ化し今後の成果に活かしていくことが大切です。
たとえば、SFAを使ってプレゼン資料を共有し、営業現場に役立てる例で考えてみましょう。
SFAをタブレットなどの携帯端末に実装し、以下のプロセスをまわしていくことで、より営業成果の向上がはかれます。
SFAでプレゼン資料を共有する例
- タブレットを使い同じ資料でプレゼンできるように、資料をアップする
- 営業担当者がどんなタイミングで資料を見せて成約に結びついたのかなど、データを蓄積
- 営業担当者の現場でのアンケートやフィードバック情報をもとに、ツールを改善する
営業施策毎の成果に対する貢献度を把握する
セールスイネーブルメントの効果を最大限に発揮するには、営業に関係する部署を横断した分析や施策が必要になります。
たとえば、プレゼン率やクロージング率だけを重要視するのではなく、採用や新人教育の分野にいたるまで、施策ごとの成果や貢献度を見える化することも大切です。
施策ごとの成果や貢献度を見える化する例
- 採用…営業現場で活躍できる人材を採用できているか?定着率はどうか?
- 新人教育…新人スタッフの成熟度合いはどうか?早期離職につながるネガティブな動きはないか?
- マーケティング…新規顧客のリード数など、営業対象になりえる情報は十分か?
- 営業…リード数からの接触率やクロージングレートは、目標通りに進捗しているか?
ゴールまでの各種施策の効果を数値化することで、低迷要因があっても素早く対処することが可能になります。
また、施策ごとの貢献度を見える化することで、それぞれの担当者の人事評価につなげることもできモチベーションアップも図れるでしょう。
営業ノウハウを共有して属人化を防ぐ
「営業ノウハウの共有」とひと言でいっても、共有すべきポイントはさまざまです。セールスイネーブルメントの導入がうまくいくと、それぞれのノウハウが共有化され営業担当者全員のボトムアップが早期にはかれます。
セールスイネーブルメントで共有すべき営業ノウハウの例
- アポイントトークやタイミングの好事例
- アプローチ手法やトーク(いかに顧客の課題を素早く見つけ提案に結びつけるか?)
- プレゼン資料(資料の内容。顧客に見せるタイミングや見せ方)
- クロージングトーク例
上記のノウハウを日々ブラッシュアップしていくことも、セールスイネーブルメントで成功する秘訣です。たとえば「このタイミングでトークを使うと成約できた」「この順序で資料を見せると効果が出た」など、現場の意見をすぐに共有すると効果的かもしれません。
また、営業現場のマネージャーなどの管理者は、各プロセスのデータを常に監視し担当者ごとや部署ごとの課題と対策を日々考えることも大切です。
専門部署や担当者を配置する
経営幹部が「セールスイネーブルメントで成果を上げたい」と思っても、現場を管理するマネージャーや担当者が消極的では十分な効果が出せません。
セールスイネーブルメントの導入に関わる人数が多すぎても、意見がまとまらずいつまでたっても成果が出ないこともあるでしょう。
セールスイネーブルメントの導入では「本気になってくれる精鋭」を配置することが大切なポイントになります。
少数精鋭で、以下のような人材投入をオススメします。
- ツール導入の責任者…SFAやCRMなどのデジタルツールの導入と運用を推進する
- 営業トレーニング責任者…ツールを使って画一的なトレーニングをする
- 営業統括管理者…営業現場の強み弱みを素早くキャッチし改善に結びつける。人事部門やマーケティング部門との調整業務も担う
上記の人材配置が難しいなら、セールスイネーブルメントの一部をコンサルティング会社などに依頼するのもいいでしょう。人材の配置だけではなく、各担当者がPDCAを回し「仮説→実行→振り返り→改善」を日々実行していくことも成功の秘訣です。
営業担当者の行動や能力を定義・評価する
デジタルツールを導入しても、担当者の育成にデータが活かされていないようでは、セールスイネーブルメントで成果を出すのは難しいでしょう。データをもとに個人の課題を定義し、粘り強く教育していくことがより早く成果を出す近道です。
セールスイネーブルメントで成功するには、デジタルに頼らないヒューマンスキルの部分も大切です。
ただ、実際の現場では育成に時間がかかったり「営業に不向きでは?」と感じる人材を抱えるケースも多いでしょう。クロージングには適正がなくても、アポインターや分析担当者など、営業プロセスごとで活躍できるステージはたくさんあります。
セールスイネーブルメントで得たデータをもとに、適材適所に人員配置することも考えながら運用していくと、人材活用の面でも成果が出せるかもしれません。
セールスイネーブルメントの理解が深まるおすすめ書籍
最後に、セールスイネーブルメントの運用にまつわるオススメの書籍もいくつかご紹介します。自部門ではじめてセールスイネーブルメントを導入する場合、書籍を通じて成功の秘訣などを勉強しておくことも大切です。
セールス・イネーブルメント 世界最先端の営業組織の作り方
「セールス・イネーブルメント 世界最先端の営業組織の作り方」は、セールスイネーブルメントの第一人者でもある「山下貴宏氏」によって書かれた本です。
山下貴宏氏は法政大学卒業後、日本HPや船井総研を経てセールスフォースドットコムで、セールスイネーブルメント本部長として活躍された実績があります。大手企業や中小企業で、イネーブルメント組織の構築に成功した実績がある山下氏の書籍からは、以下のような内容が学べます。
・セールスイネーブルメントの構築方法
・具体的な導入例(Sansan、NTTコミュニケーションズ、セールスフォース・ドットコムなどの事例紹介)
セールスイネーブルメントの導入をきっかけに実績を上げたいなら、具体例も多数掲載されている「セールス・イネーブルメント 世界最先端の営業組織の作り方」はオススメの一冊です。
営業力を強化する世界最新のプラットフォーム セールス・イネーブルメント
「営業力を強化する世界最新のプラットフォーム セールス・イネーブルメント」は、ミラーハイマングループで営業組織のコンサルティングを務めてきた「バイロン・マシューズ 氏」によって書かれた本です。
セールスイネーブルメントはアメリカで注目を浴びてきた手法です。先進国のアメリカでの実績を踏まえ、とくにBtoBの営業現場におけるマネジメント手法などが学べます。
・営業KPIの設定の仕方や営業成果の管理方法
・マーケティング部門などの他部署との連携方法
・成果を出すための組織のあり方
まとめ
日々変化が激しい営業現場では、顧客のニーズに対応しながら社内の営業スタッフにもきめ細かなフォローをしていかなければいけません。さまざまな営業課題を抱えながら成果を出していくには、営業の仕組み化は必要な施策といえます。
セールスイネーブルメントを軌道にのせるには費用も手間もかかりますが、売上や利益の向上はもちろん人材育成にも効果を発揮します。
よくある営業現場の課題は「属人的になること」です。今こそ、最高の営業成果を出すために、セールスイネーブルメントの導入を検討してみてはいかかでしょうか。