サブスクリプションサービスなど継続利用を前提とする商材が増えているなか、顧客フォローを通じて売上向上の役割を担うのが「カスタマーサクセス」です。大企業のなかには、社会情勢の変化やグローバル市場での差別化をはかるため、カスタマーサクセス部門を立ち上げるケースも増えています。
今回はカスタマーサクセスの特徴や、成功する秘訣をご紹介します。
カスタマーサクセスとは
カスタマーサクセスの役目は「顧客のサポートを通じてサービスを継続利用してもらうこと」にあります。カスタマーサクセスの定義や特徴などを要約すると、以下のようになります。
カスタマーサクセスの概念
- 目的は顧客満足度向上による利用継続
- 受け身の仕事ではなく能動的に顧客に働きかけることが重要
- クロスセルやアップセルを促す役割も担う
カスタマーサクセスの特徴や意義がピンとこない人のために、身近な例で考えてみることにしましょう。
カスタマーサクセスが活用されるサービスにはさまざまな種類があります。今回は通信回線の事業者が提供する「インターネット通信サービス」を例に考えてみます。
従来の販売方法ではWEBや店頭でインターネット回線を販売し、契約後はトラブルが起こるまで顧客とは接触しないのが一般的でした。しかし、最近のインターネット回線販売においては「売切型」ではなく定期的なフォローを通じて顧客満足度の向上と長期利用を目指す企業が増えています。
インターネットのサービスでカスタマーサクセスを利用した例
導入 | 顧客のニーズを把握し最適なサービスを提案する |
利用初期段階 | 速度不満などがないか定期的にヒアリングし初期段階からの解約離脱を防ぐ |
利用中 | インターネット回線を利用したコンテンツ動画サービスなどを提案し利用促進と満足度向上に努める |
成果達成時期 | サービスの利用価値や付加価値を体験してもらいアップセルやクロスセルを提案する。他者推奨をもらえることが理想 |
カスタマーサポートとの違い
カスタマーサクセスとよく似た職種に「カスタマーサポート」があります。両方とも電話やWEBツールを使った顧客サポートが仕事です。しかし、目的や目指すべきゴールがまったく違います。
カスタマーサクセスとカスタマーサポートの違いを簡単にまとめていますので、以下の表をご覧ください。
カスタマーサクセスとカスタマーサポート比較表
カスタマーサクセス | カスタマーサポート | |
顧客との接触方法 | 能動的(メールや電話、WEBツールでアプローチする)管理する担当社数が決められることが多い | 受動的(顧客からの問い合わせを待つ) |
目的 | ・利用価値向上 | ・トラブル解決 |
・顧客満足度向上 | ・問い合わせ対応 | |
目指すべきゴール | ・顧客の成功体験(CX) | ・問題解決 |
・利用継続と他者への推奨 | ||
指標KPI | ・解約率低減 | ・トラブル解消率 |
・利用継続率向上 | ・問い合わせ処理件数や対応時間 | |
・ARPU(顧客単価)の向上 | ||
・NPS向上(※) |
※NPS…「Net Promoter Score(ネットプロモータースコア)」の略。顧客ロイヤリティを図る指標で、推奨者の割合から批判者の割合を引いて算出する
カスタマーサクセスが注目される理由
BtoBやBtoCのサービスにおいては、近年カスタマーサクセスの注目度が高まりつつあります。カスタマーサクセスが注目される理由はいくつかありますが、サブスクリプションタイプのサービスが増えてきたことも大きな理由のひとつです
カスタマーサクセスが注目される3つの理由
- サブスクリプションサービスの台東で「顧客価値体験の向上」が重要になった
- グローバル市場が激化し、満足度が得られないと価格の安い海外のサービスに顧客が流れてしまう
- 営業スタイルの変化で非対面営業が主流となりつつある
サブスクリプションサービスの台頭
サブスクリプションサービスとは、継続利用を前提に毎月定額料金でサービスを提供するビジネスモデルのことを指します。サブスクリプションサービスは長期利用を前提にしているため、カスタマーサクセスによる長期的なフォローが欠かせません。
サブスクリプションサービスが活用される商材としては、SaaS業界や動画配信などのコンテンツ提供サービス、トレーニングジムの月額会員サービスなどがあげられます。
カスタマーサクセスを活用してサブスクリプションサービスで成果をあげた事例もご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
カスタマーサクセスの成功事例:※トレーニングジムの場合
・カスタマーサクセスによる会員サポートを徹底
・ダイエット目標を共有し食事制限までフォローをおこなう
・減量目標を達成することで会員は成功体験が得られ、ダイエット食品やトレーニンググッズウェアなどのクロスセルにもつなげる
グローバル市場における差別化の難易度が高くなっている
商品のグローバル化が進んでいることも、カスタマーサクセスが注目される理由のひとつです。
健康食品や化粧品などを例に考えてみましょう。健康食品や化粧品の業界では海外拠点の企業も多く、価格や品質において日本製よりも勝るケースがあります。そのため販売後に継続的なフォローをせずに放置してしまうと、海外製品に乗り換えられるリスクが発生します。そこで重要な任務を担うのが「カスタマーサクセス」です。
カスタマーサクセスは顧客に寄り添い、サービス利用継続中にさまざまな成功体験ができるよう導きます。きめ細やかなサポートを受け、生活向上体験などさまざまな成功体験ができた顧客は簡単には解約しないでしょう。単に商品やサービスを売るだけではなく、サービスを通じて感動を与えるのもカスタマーサクセスの重要な役割です。
営業スタイルの変化
営業スタイルの変化には2つの意味があります。
- 売切型からサブスク型の商品設計が主流になりつつある
- 対面営業が敬遠され、非対面営業が好まれる時代になってきている
SaaS型のサービスのなかには、基本サービスだけではなく顧客のニーズに合わせて商品をカスタマイズしていくケースも増えてきています。
たとえば、SaaS系商材に代表される会計ソフトなどは典型的な例です。はじめに提供されるのは基本の会計処理だけができるサービスのみです。そして、購入後は顧客のニーズに合わせオプションを追加していくことで、顧客専用のオリジナル商品ができあがります。基本サービスにはない有料サポートを付ける顧客が増えると、売上も向上するでしょう。
この「顧客ニーズに合わせたサービス」を一緒に作り上げるのが、カスタマーサクセスの仕事なのです。顧客ごとの事情に合わせた商品ですから、当然満足度も上がり継続して利用してもらえるでしょう。
また、カスタマーサクセスではリモートで顧客と接触しますので、まさに時代にあった営業手法といえます。
カスタマーサクセスが担う役割
カスタマーサクセスは、カスタマーサポートとは違い企業の収益を左右する役割も担います。カスタマーサクセスが強い会社は成長し、うまく機能しない会社は衰退するといっても過言ではありません。カスタマーサクセスが担う役割としては、おもに以下の3つがあげられます。
- 解約削減
- LTVの最大化
- 提供プロダクト・サービスへのフィードバック収集
解約(チャーン)の削減
サブスクリプションサービスにおいては、顧客に1日でも長く利用してもらうことがポイントです。そのため、カスタマーサクセスは「解約削減」が重要なミッションとなります。導入直後に顧客がCXを体感できないと、早期に解約されてしまうリスクが発生します。具体的なKPIの算出方法は後ほど触れますが、カスタマーサクセスは以下2つの解約指標を達成しなければいけません。
- 顧客単位の解約率低減(customer churn)
- 解約単価の低減(revenue churn)
ひとつ目の「カスタマーチャーン」は、顧客あたりの解約率のことです。サブスクリプションサービスでは新規利用者の獲得も重要ですが、最終的には「純増数」が重要になってきます。カスタマーサクセスがうまく機能すると解約率は下がり、結果純増数は増え続けます。
ふたつ目の「レベニューチャーン」は、解約単価の影響を見る指標です。単価が低い顧客の解約より、単価が高い解約のほうが経営に与えるインパクトは大きくなります。「新規獲得の顧客単価よりも解約する顧客の単価のほうが高い」となると、利益率は減少していきます。
LTVの最大化
LTVとは「ライフタイムバリュー(Lifetime Value)」の略で、1件の顧客が生涯にわたりもたらす価値を示す指標のひとつです。高ARPUの顧客が継続してサービスを利用してくれればLTVは向上していきます。
ダイエットを目的とした月額制フィットネス会員を例に考えてみます。カスタマーサクセスが機能しないフィットネスジムの場合、月額が8,000円と仮定すると顧客が解約するまでの収益は毎月ずっと8,000円のままかもしれません。一方、カスタマーサクセスがうまく機能すると、以下のような効果が期待できます。
カスタマーサクセスを活用したLTV最大化の例※フィットネスジム月額会員の場合
ARPU向上 | 成功体験を提供することで「さらに効果を上げたい」と感じてもらえる。その結果利用回数が増え、8,000円/月→10,000円/月と利用料のアップも期待できる |
利用継続 | ダイエットの成功に導くことで顧客満足度が向上し利用継続期間も延びる |
クロスセル | 健康食品やダイエット食品など、付帯商材のクロスセルも期待できる |
提供プロダクト・サービスへのフィードバック収集
カスタマーサクセスには、顧客からの要望やクレームなどをサービス改善につなげていく重要な役割があります。提供プロダクト(商品)を長く使い続けてもらうためには、カスタマーフィードバックが非常に大切です。
顧客の声をサービス改善に活かすマネジメント方法を「カスタマーフィードバックマネジメント(CFM)」と呼びます。カスタマーフィードバックによる商品改善が成功している例として、サブスクリプションサービスで有名な「動画配信サービス」を例に考えてみるといいでしょう。
動画配信サービスを利用していると、レコメンド機能による「あなたへのオススメ」がよく出てきます。レコメンドとは、顧客の利用状況や嗜好データを抽出し好みに近いコンテンツを提案する機能のことです。レコメンド機能は、まさに「顧客の要望」が反映されているわけですからカスタマーフィードバックが上手に機能しているサービスといえます。
動画配信サービスを提供している会社は、レコメンド機能の情報をさらに分析し、今後のサービス向上に役立て、さらなる利用継続を促すこともできるでしょう。
カスタマーサクセスでチェックすべきKPI
解約率の削減やLTV向上など、カスタマーサクセスがめざすべきKPIの算出方法も見ていきましょう。
カスタマーサクセスの業務内容は、一般的な営業職やカスタマーサポート職の内容と重複することも多く、成果を図るためには目標設定を明確に定めることが重要です。
解約率/継続率/離脱率
解約率と離脱率はほぼ同じ意味ですので、ここでは解約率と継続率の出し方について解説します。
解約には「カスタマーチャーン」と「レベニューチャーン」があり、カスタマーサクセスではおもにカスタマーチャーンが主要KPIとして用いられます。
解約数÷顧客数×100
一方、維持率は提供プロダクトを継続利用している顧客の割合を示す指標です。維持率はリテンションレートとも呼ばれ、リテンションレートには「カスタマーリテンションレート」と「レベニューリテンションレート」の2種類が存在します。以下は維持率でよく使われるカスタマーリテンションレートの出し方です。
(サービス期間終了時の顧客数-期間中の増加顧客数)÷期間開始時の顧客×100
またカスタマーサクセスの役割のひとつに「解約阻止」があり、主要KPIに「解約阻止率」が加えられることもあります。
LTV(顧客生涯価値)
LTVは「生涯得られる顧客価値」を指し、具体的には以下の計算式で算出されます。
(年間売上×利益率)×利用継続年数
毎月の売上が10,000円で利益率が50%だった場合、3年間継続利用した顧客のLTVは以下のとおりとなります。
・10,000円×50%×12ヶ月×3年=LTV180,000円
一方で売上が8,000円になり、利用継続期間も2年と短くなった場合のLTVは以下のようになります。
・8,000円×50%×12ヶ月×2年=LTV96,000円
売上が2割減って利用継続期間が1年短くなるだけで、LTVは約半分になってしまうことがおわかりいただけるでしょう。
NPS(ネットプロモータースコア)
NPS(ネットプロモータースコア)は顧客ロイヤリティを算出するKPIのひとつです。NPSが高ければ高いほど顧客の利用継続が長くなる傾向にあります。
・自社サービス利用者にアンケートを取る(質問内容=商品を他人に薦める度合は?)
・批判0点~推奨10点で回答してもらい「推奨者9~10点」「中立者7~8点」「批判者0~6点」に分類
・推奨者の割合から批判者の割合を引いた数がNPSの値となる
(批判者の数 ÷ 回答者全員の数)
NPSを使ってサービス改善に役立てるにはできるだけたくさんのサンプル数を集め、正直な意見を集約することが大切です。
カスタマーサクセス成功のポイント
カスタマーサクセスの定義を理解しKPIが設定できたとしても、適切な運用ができていないと成果は出せません。
カスタマーサクセスの成功には、以下3つのポイントが重要になってきます。
- 顧客の成功を定義付けする
- 適切なKPIを設定する
- 顧客のフィードバックをもとにサービスを改善する
- 顧客の成功を定義付けする
カスタマーサクセスを成功させるには、顧客のステージを3つのステップに分け、それぞれで顧客の成功を定義づけすることが大切です。
ステージごとのゴールを設定し、サービス提供者と利用者が同じゴールを共有することが重要になってきます。
たとえばダイエットを目指す月額制フィットネスジムの場合なら、生活改善の課題を共有し最終的に「20キロ痩せられた」などの減量目標を達成できたときがもっとも大きな成功体験となります。
ステージごとの「成功の定義」を表にしていますので参考にしてください。
時期 | 顧客が目指すべき成功の定義 |
導入前 | ・顧客の課題が明確になる |
・サービスを利用することで課題解決の期待感が得られる | |
導入初期 | ・初期利用で離脱しないためのアダプション(※)がある |
・課題解決を実感できる | |
・継続利用により「もっと成果を上げたい」と思うようになる | |
利用継続中 | ・CX(カスタマー・エクスペリエンス)を体験しサービスが手放せなくなる |
・付帯商材の購入などにより利用効果がアップする |
※アダプション…商品やサービスを使いこなせるようにサポートすること
適切なKPIを設定する
カスタマーサクセスの運営でKPIを設定するときは、以下の点に留意して適切な指標を決める必要があります。高すぎる目標や計測不可能な目標を設定してしまうと、メンバーのモチベーションが下がる原因にもなりかねません。
カスタマーサクセスのKPI設定時の注意点
- 達成可能な目標を設定する…解約率を主要KPIに定める場合、昨年度1%だった解約率をいきなり0.5%にするなど無理がある目標は危険。自社の状況や市場環境を吟味し、多少背伸びすれば達成できる数値を設定することが大切
- PDCAを回して軌道修正する…変化の激しい市場においては一度決めたKPIが意味を成さなくなるケースもある。少なくとも四半期ごとにPDCAをチェックし、現状と乖離した目標は修正することが重要
- 具体的な目標を定める…計測できない定性目標を設定しないようにする。目標は必ず定量的なものとし、短期的にレポートできることが重要
顧客のフィードバックをもとにサービス改善
顧客からのフィードバックを売上向上に結びつけるには、カスタマーサクセスが他部署との「橋渡し的存在」にならなければいけません。
具体的には以下の役目を担う必要があります。
■顧客の声を分析しプロダクト改善につなげる
顧客からの要望やオンライン上で収集できる利用者データを分析し、サービスの利用頻度を商品企画部門などにフィードバックしプロダクト改善につなげる
■CRMを活用し、マーケティング戦略をたてる
CRM(顧客管理システム)を活用し、受注確率が高いタイミングで新商材の提案をおこなう。提案時期と成約率のデータを分析し、今後のマーケティング戦略に活かす
■注力するマーケット/顧客を見極める
定期的に費用対効果を分析。成果が出ないなら販売商材や対象顧客を見直す「英断」も必要
上記のようなサービス改善は、カスタマーサクセス部門だけで成しえるものではありません。各部門を統括する管理者の意識改革も必要になります。
まとめ
サブスクリプションサービスが増えきた昨今、競合他社との競争が激化することも珍しくありません。差別化を図りユーザーに長期間利用してもらうには、カスタマーサクセスはとても重要な役割を担う存在といえます。
一方でカスタマーサクセスを軌道にのせるには、管理ツールの導入や管理者が機能することなど高いハードルを超えなければならないのも事実です。
今回の記事を参考に、ぜひ自社の収益改善のため、カスタマーサクセスの改善や新規立ち上げを検討してみてください。